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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1886号 判決 1967年1月25日

控訴人 有限会社大和不動産

被控訴人 国

訴訟代理人 中村盛雄 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

控訴会社が昭和二六年中に大河原房次郎から控訴人主張のように別紙目標記載の土地(以下本件土地という。)を買受け、それぞれの旨の登記を経たこと、その後昭和三五年一〇月六日控訴会社が大河原房次郎の相続人大河原幸作同大河原貞子との間に右売買契約を合意解除し、控訴人主張のように前示所有権収得登記の抹消登記と右相続人両名のための相続による所有権取得登記がなされたこと及び本件土地に対する大河原幸作と大河原貞子の各共有持分につき、控訴人主張のように債権者を大蔵省とする差押及び参加差押の登記がなされていることは、当事者間に争がない。<証拠省略>によると、弁護士木暮勝利は、三井由春外四名が静岡地方裁判所沼津支部に控訴会社を相手方として、控訴会社は脱税の目的で設立せられた架空の会社との理由で申請した同支部昭和三五年(ヒ)第五号解散命令申立事件につき被申請人たる控訴会社の委任により代理人としてその処理に当つたが、同裁判所より控訴会社の実態の立証を求められ、調査したところ、控訴会社は昭和二六年九月二七日設立以来約一〇年間ノート一冊以外なんらの帳簿も備付けず、その財産としては本件土地のみで他に何物もなく、代表取締役市島徹太郎は、単に各自のみの存在で、大河原房次郎の子大河原幸作が、社員でないのにかかわらず同会社の実権を一手に握つており、右房次郎所有の吏京都内所在の本件土地の管理の目的のみにより設立された会社でありながら、静岡県伊東市に形式上の本店を置く等なんら実体のない会社であることが判明したので、解散命令を受けることは必至であると考え、解散となれば本件土地を処分せねばならない関係上、むしろ解散命令を待たずに本件土地を処分した上控訴会社自ら進んで解散して前記紛争の収束をはかるに如かずとし、大河原幸作、控訴会社代表取締役市島徹太郎らと善後策を相談の末、本件土地を売買等により大河原幸作らに移転する場合に課せられるべき税の負担を考慮し、法律上権利移転の効果なきに帰する房次郎と控訴会社間の前記売買契約の合意解除により本件土地を房次郎の相続人である大河原幸作及び同貞子に復帰せしめることが最良の方法としてこれを採ることに決したこと及びその際右合意解除に対しても課税せられるときは、これに対処すべき方法を別途後日講ずべき旨を打合せ、合意解除の契約書を作成し、それに伴う解散登記等一切の手続には大河原幸作自らこれに当つたことが認められる。

控訴人は、中野税務署長が右合意解除をもつて新たな売買であると同視し、本件不動産の時価を控訴会社の所得として法人税の更正決定をなしたことをもつて解除契約当時控訴会社の予期しなかつたことであるとし、このようなことになるのならば合意解除するはずがなかつたのであるから、右解除契約は、要素の錯誤により、無効であると主張するが、控訴会社代表取締役市島徹太郎らは、裁判所の解散命令に因る解散を回避するために、自発的に解散することを既成の前提とし、会社財産たる本件土地の処分につき、課税される虞の少い最良の方法として前示売買契約の合意解除の途を選んだものであり、合意解除に対し万一課税せられるような場合にはこれに対処抗争する意図であつたことは前段認定のとおりであるから、右合意解除契約が要素の錯誤によるものであるとの控訴人の主張は、理由のないものというべく、又、控訴人は、右解除契約が虚偽表示であると主張し、当審証人大河原幸作は、右解除契約が真意に出たものでない旨証言するが、前段認定の事実からして措信できないものであり、他に右主張を認める証拠はない。

控訴人は、右解除契約により本件土地を大河原幸作及び大河原貞子に返還することは、控訴会社の営業の全部又は重要な一部の譲渡というべきところ、右解除契約を為すにつき有限会社法第四八条の特別決議が為されていないから右契約は無効であると主張するが、会社の営業用財産の全部または重要な一部の譲渡であつても、それが営業を構成する各個の財産としてのみの譲渡であるときは、そのために、譲渡会社が当然営業を廃止しまたはその営業の規模を大幅に縮小するの止むなきにいたる等当該譲渡会社の運命に重大な影響を及ぼす場合であつても、特別決議を必要としないものと解すべきであるので前記解除契約をなすにつき、控訴人が有限会社法第四八条の特別決議をしなかつたことをもつて、右解除契約が無効であるという控訴人の主張は、失当である。

以上の如く、右解除契約が無効であるとする控訴人の主張は、すべて失当であるので、控訴人は、同契約により本件土地の所有権を喪つたものというべく、従つて、控訴人が本件土地の所有権を有することを前提とする控訴人の本訴請求を棄却した原判決は、相当であるので、本件控訴は、これを棄却すべきである。

よつて、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 仁分百合人 池田正亮 小山俊彦)

物件目録<省略>

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